実は環境負荷を気にしてるという話

新しいものを生み出すには大抵の場合、副産物が伴う。
かと言って作りたいものは仕方ないので、
なるべく環境負荷を減らしたいと考えています。

一番気を使っているのは水です。
筆を洗うと絵具の混ざった汚い水が出来上がり、
いつも水道に流すのが嫌でした。

その水を作品に使い切ることもやっていたのですが、
何年か前に水スプレーと拭き取りの方法思いつき
ついに筆洗いの水を流さずに済むようになりました。

実はtissuecolor®︎の技法としても思わぬ効果がありました。
ティッシュを貼り、色を載せるときには筆で水をつけていたのですが
スプレーを使うことで、より細かな表現ができるようになりました。

わたし自身はどちらかと言うと合理的なことに居心地の良さがあります。
アーティストらしくないかもしれません。
しかしながら、デザインとして美しいものは、
無駄がないものなのではないか、とも考えています。

やりたいことを好きなようにやるのはとても素敵なことですが、
その先も考えて行動できるようになりたい
そんなふうに考えて日々作品と向き合っています。

2021年12月 個展「tissuecolor®︎ いままでとこれから」

2021年12月18日から24日まで、2年ぶりの個展を開催いたします。

 2016年からティッシュを使って着色する技法にtissuecolor®︎と名付けて作品を作っています。この技法に気の向くままに向き合い続け、今日までティッシュを貼りつづけてきました。

 今回の個展開催にあたり、「ティッシュを貼る」というと、とても単純なことですが、“なぜティッシュを貼るのか。貼るというのはどういうことなのか。”を今一度考えてみようと思いました。

 そして、パンデミックにより人との接触が減り、リアルな感覚や直に触れるという機会が極端に減る体験をした今、自分が求めている”手触り“の感覚に集中することをやってみたいと思いました。

 なぜティッシュを貼るのか。ことの始まりは、仕事が辛くて夜な夜な心の整理のためにキャンバスに向かっていた頃のことでした。荒んだ気持ちで向かうキャンバスはいつも混沌としていて、ただただストレスが色の渦となっているだけでした。ある時、もうこの色を見たくないと思い、混沌とした絵の具の渦の上に、思い立ってテッシュをかぶせてみました。すると混沌とした渦がふわっと優しくなったように見えて、心がスっと軽くなるのを感じました。さらに水をつけると色がふわりと広がり、心が暖かく包まれるような感覚になりました。この時のティッシュを貼ることによって癒しを得た体験から生まれたのがtissuecolor®︎です。

 それからはさまざまな表情を見せてくれるこの技法にアイディアが止まらず、思いつくままに作品を作り続けてきました。続けていく中でにティッシュを貼る、重ねる、色を載せる、水をつけるという一連の作業は、自分と深く向き合うための瞑想のような時間になっていました。さらにこの一連の作業そのものを繰り返すうちに、記憶の塗り重ねをしているようだと思うようにもなりました。良い記憶、嫌な記憶、経験してきた全ての記憶は生きていく中でどんどん上書きされ、時にははっきりと残ることもあります。しかし、忘れられないような嫌な記憶にもティッシュを貼り重ね続けているうちにまるで手当てをする感覚に似ていると思うようになりました。こうして、心地よい手当ての感触を探るうちに今では“手触り”が作品に内在する重要なテーマとなっています。

制作を始めた頃の作品から、今日までの作品を並べてみて、見返してみると自分そのものでなんだかお恥ずかしいのですが、誰しもが知っている感情や重なる記憶がきっとあるのでは、とも感じております。

ぜひ、作品たちの手触りを確かめにいらしてください。
アートとの対話で心が軽くなる瞬間に立ち会えたら幸いです。